No.16 ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオリ・レ・ムーラ大聖堂〔イタリア〕|週刊 世界遺産×富井義夫 - 最新ヨーロッパの人気世界遺産めぐり

No.16
2014年8月3日

〔イタリア〕

ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオリ・レ・ムーラ大聖堂

Historic Centre of Rome, the Properties of the Holy See in that City Enjoying Extraterritorial Rights and San Paolo Fuori le Mura

 ここは人の集まる空間のスケールをはるかに超えている─巨大な列柱やモニュメントが立ち並ぶフォロ・ロマーノを初めて歩いたとき、押し寄せてくるような迫力にそう思った。世界史上でも稀な巨大国家の中心地だから、と言ってしまえばそれまでかもしれないが、やはりスケールは尋常ではない。微妙な廃墟のような気配も妙にリアルな感じを演出している。軽い酩酊状態を覚えたほどで、自分では密かに「ローマ酔い」と名付けたのだが、それほど最初の印象は強烈だった。
 フォロ・ロマーノは「ローマ人の公共広場」と訳されるが「広場」といってもとにかく大きいので、まずは隣接するパラティーノの丘に上がることを薦めたい。この丘の上なら広場の全容をつかめるし、コロッセオなどの方角もよくわかる。フォロの構造や遺跡の位置を把握したら、丘から下ってそのままフォロ・ロマーノに足を踏み入れればいい。
 そこにはバジリカや凱旋門、神殿、聖堂の遺構などがそれぞれ複数、時代を超えて林立している。フォロ・ロマーノが人々を魅了してやまないのは、これらの建物を忠実に追っていけるからだろう。特に西側はカエサルのフォロをはじめ多くの巨大遺構が立ち並んでいて歩きがいがある。
 現地に立てばすぐにわかるが、フォロ・ロマーノは現在のローマ市内より低いところにある。栄華を極めた都市も帝国の滅亡後は住む人のない野原になっていたようで、古代ローマの土木技術の結晶も18世紀まで土のなかに埋まっていた。これを掘り起こしたために地面がほかより低くなっている。
 フォロ・ロマーノの東端にティトゥスの凱旋門があるが、ここからフォロ・ロマーノを出ると目の前に円形闘技場コロッセオが現れる。この闘技場では朝から晩まで猛獣狩りや公開処刑、どちらかが死ぬまで終わらない剣闘士(グラディエーター)の戦いなどが見世物として提供されていた。血なまぐさいショーを主催したのは皇帝自身。身分別に席を設けて階級意識を徹底させ、見世物という娯楽を与えることで安定した国の統治を図ったという。
 コロッセオのすぐ西隣にはローマでいちばん大きい凱旋門が立っている。のちに皇帝となるコンスタンティヌスが政敵との戦いに勝利したことを記念して建造された凱旋門だ。門の表面は見事なレリーフで覆われているが、これらはほかの建造物からはぎ取って流用したものが多い。たとえば、最上層にあるバルバロイの彫像はマルクス・アウレリウス・アントニウス帝の凱旋門からもってきたもの。凱旋式典の光景が描かれた大理石のパネルは、トラヤヌス帝やハドリアヌス帝のものをコンスタンティヌス帝の姿形に置き換えて流用したものだという。
 コロッセオと並ぶ重要な建造物がパンテオン。2000年前に建設され、現在もキリスト教会として使われている現役の建物だ。これだけ巨大な建物が鉄筋も使わず当時のコンクリート技術だけで造られているといわれても、にわかには信じがたい。
 それにしても、これほど多くの巨大な遺構がなぜローマに集中しているのだろうか。
 為政者が変わって時代が大きく動く節目に遷都が行なわれることはよくある。日本だってそうだ。しかし、ローマに取って代わる都市はついに現れなかった。約1000年も続いた古代ローマの都として君臨し続け、皇帝たちは唯一の都に次々と建物を建てていったのである。「ローマを掘れば遺跡に当たる」といわれるほど多くの遺跡が、まだまだ土の下で眠っている。新しい発掘が行なわれて、遺跡の都市ローマは膨張を続けるに違いない。
 街を歩いていて巨大な建造物に出くわしたとき、フォロ・ロマーノでむき出しになった円柱を見上げるときは、いまでも軽い戦慄を覚える。1つの建物だけに的を絞るのなら、似たような歴史的建造物はほかの町にもたくさん存在するのだが、ここでは一つ一つの建造物が総体的な重みをまとってヒタヒタと迫ってくる。不思議な感じがしてならないのだが、ローマという土地がそうさせるのだろうか。
富井義夫




アクセス:ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオリ・レ・ムーラ大聖堂〔イタリア〕 【所在地】
イタリアの首都、ローマ市内にあるローマ帝国最盛期に建てられた遺構が大部分を占めていたが、1990年に登録範囲が拡大され、ローマ発祥の地とされる七つの丘やコロッセウム、パンテオンのほか、サン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂やヴァティカン市国直轄の3つの聖堂を含む。

【アクセス】
ローマ・フィウミチーノ空港からローマ・テルミニ駅まで列車で約30分。ヴァティカン市国へはローマ・テルミニ駅からバスで約25分。