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No.12 パリのセーヌ河岸〔フランス〕|週刊 世界遺産×富井義夫 - 最新ヨーロッパの人気世界遺産めぐり

No.12
2014年7月6日

〔フランス〕

パリのセーヌ河岸

Paris, Banks of the Seine

 「漂えど沈まず」という句がある。小説家の開高健が遺した名言として知られているが、実はこれは開高健の言葉ではない。彼自身も書いているのだが、パリ発祥の地であるシテ島がルテティア(沼沢地)と呼ばれていたはるか昔から「漂えど沈まず」はこの町のモットーだったのだ。これはパリの市民憲章にもなっている。
 この言葉は元来、魂の自由を表すものだったらしい。当時のパリの町は古代ローマ帝国の支配下にあった。そんな状況にあって、たとえ支配は受けても魂まで売り渡しはしない、という人々の決意の表れだったのである。
 含蓄のある言葉でいろいろ自由な解釈ができるのだが、わたしはこの言葉を、「漂う」ことを寛大に見てくれるパリにぴったりの名句ではないかと思っている。パリの街に惹かれるように世界中からやって来たあらゆる人々─画家や小説家や映画監督の卵、亡命政治家、旅人、あるいは移民にいたるまで─は、最初は何者でもない漂泊者である。そんな人々が「沈まず」に、自分のなかに何かを見つけていく街。あるいはどこから来てもすっと入っていけるようなコスモポリタン的な都市。そんな風土がパリの街には宿っている。
 パリには雰囲気の異なる界隈がいくつもあって、行くところ行くところに見どころがあるのも、人々が魅了されてしまう理由かもしれない。
 たとえばシテ島。セーヌ川の中州に浮かぶこの島は、冒頭でも触れたようにパリ発祥の地。島内には中世ゴシック建築の傑作であるノートルダム寺院、マリー・アントワネットも収監された牢獄コンシェルジュリー、360度全面にはめ込まれたステンドグラスから降り注ぐ光が感動的なサント・シャペルと、歴史的建造物が詰まっている。島からポン・ヌフを渡ってルーヴル美術館へと向かうセーヌ川沿い道は、そのときどきで異なる表情を見せるから何度歩いても新鮮な気分になれる。
 空が茜色に染まる夕刻時、ポン・ヌフの向こうにそびえ立つシテ島の古い建物が愁いを帯びた見事なたたずまいを見せる。大都会の真ん中にあるのに、この景色は決して浮き上がってはいない。それどころか、パリ独特の空気感を代表するかのように悠然とそこにある。いまはルーヴル美術館として利用されているルーヴル宮殿もそうだが、この街の古い建造物群は、どこかの時代で役割を終えてしまった過去の遺物ではない。現在でも連続してパリの街のなかで生き続けている。そんな無数の建物の存在が、パリ独特の空気を生み出しているのだろうか……。
 ルーヴルからセーヌ川沿いにオランジェリー美術館やコンコルド広場を抜けていけばアレクサンドル3世橋に行き着く。四隅に立つブロンズ像が金色に輝く夕暮時や橋の街灯が灯る夜景も見て欲しい。豪華絢爛なパリの風景の一端が感じられるはずだ。
 アレクサンドル3世橋からはシャンゼリゼ大通りも徒歩圏内。この通りを西端まで歩いて行くと凱旋門に行き当たる。凱旋門の上から眺める景色もいい。眼下にはロータリー形式の交差点があって、放射状に延びる道にパリの街のつくりが見てとれるはずだ。さらにはエッフェル塔や近代的なデザインが目を引く新凱旋門も目にすることができる。
 エッフェル塔といえば建設当初、パリの街に馴染まないと猛反発をくらったのだが、いつの間にかパリのランドマークのひとつとして当たり前のように君臨してしまった。白大理石とガラスでできた新凱旋門や三角形のルーヴルのエントランスも同様で、最初は奇抜にも思えるデザインの建造物がそのうちすっと街に馴染んで、収まってしまう。新しい建物を古い景観に溶け込ませるセンスの良さみたいなものをこの街はもっている。
 少し離れたモンパルナス界隈は、大戦後の開放感に満ちていた時代に、異国の画家や詩人、小説家が集ったところ。シャガールやモディリアーニ、藤田嗣治、ヘミングウェイやコクトーらがそれぞれ溜まり場としていた当時のカフェが残っている。あるいはユトリロやピカソが愛した小高い丘モンマルトル、貴族の館に囲まれた広場周辺にシックな趣が残るマレ地区など、毛色の異なる界隈がパリのなかに同居している。懐の広さというのか、コスモポリタン的な性格というのか、とにかく多彩な街だから、そのぶん自由気ままな街歩きができてしまうのである。
 パリの魅力を語るとき、多くの人が引用するアーネスト・ヘミングウェイの次のような言葉がある。
 「もし幸運にも若い頃、パリに住んだとすれば、残りの人生をどこで過ごそうともパリは君についてまわる。なぜならパリは移動祝祭日だからだ」
 変動を続ける大都会そのものが、これほどまでに人を虜にしてしまう例をわたしはあまり知らない。その理由がわかるはずもないけれど、いつの時代も変わらないバックボーンがこの街にはあったから、ということは言えると思う。それがシテ島であり、セーヌ川の河畔であり、小高い丘であり、現代では歴史的建造物群やカフェや美術館なのだ。この街は将来も多くの人を魅了し続けていくに違いない。
富井義夫




アクセス:パリのセーヌ河岸〔フランス〕 【所在地】
フランスの首都、パリ市内を流れるセーヌ川の両岸とシテ島を中心に、ノートル・ダム大聖堂やエッフェル塔、ルーヴル美術館などたくさんの見所が点在する。

【アクセス】
シャルル・ド・ゴール空港から市内へはバスで約40分、RER(高速郊外鉄道)で約30分。