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No.02 ヴェネツィアとその潟〔イタリア〕|週刊 世界遺産×富井義夫 - 最新ヨーロッパの人気世界遺産めぐり

No.02
2014年5月4日

〔イタリア〕

ヴェネツィアとその潟

Venice and its Lagoon

 ある年、ヴェネツィア・ビエンナーレの終幕と重なってしまい─むろん滞在費を安くあげたいこともあって─ヴェネツィアから数駅離れたビジネスホテルに宿をとったことがあった。翌日、電車でヴェネツィアに向かったのだが、このとき改めてこの町の特異性を痛感してしまった。
 どういうことかというと、その日の朝、ビジネスホテルを出て電車に乗り込むまで普通に存在していた車や信号機、オフィスビルが、ヴェネツィアの街に入ったとたんいっさい掻き消えてしまうのである。街を歩いていて目の前を横切るのは、自転車でも車でもなく観光客か猫の姿だけ。ここでは徹底した管理で旧市街がそっくりそのまま保全されている。世界中から訪れる観光客はこのまるまる旧市街という稀に見るエリアに足を踏み入れて、ヴァポレット(水上バス)やモトスカーフィ(水上タクシー)を移動の足に利用しながら、街歩きを思うさまに楽しむ。要するにヴェネツィアは巨大な「歴史的テーマパーク」なのだ。
 水の都ヴェネツィアには150を超えるといわれる運河が縦横無尽に走っている。揺れる運河の水面を見つめているだけで、陶酔感にも似た心地良さに襲われる。そんな街だから、散策は自分の嗅覚と足のおもむくまま、自由気ままに歩き回るに限る。その途中で、金色に輝く内陣のサン・マルコ寺院や400年前から現役のリアルト橋にも出くわすはずだ。
 表通りはやはり人通りが多い。旅先で大勢の観光客に出くわすとげんなりすることもあるけれど、ここではどういうわけかそういう気分にはならないのが不思議なところ。その理由はやはり誰もが日常から切り離された世界に遊んでいるからだろう。マイペースで楽しんでいる観光客の高揚感が伝染して、自分もどこか浮き浮きした気分になっていく。それでも人混みを避けたくなったときは、すっと路地に入ってしまえばいい。喧騒が消えた古い石畳の道に佇めば、中世の町にタイムスリップしたような感覚を味わえる。
 迷路のように続く石畳の路地をぶらぶら歩いていると、あちこちで運河に架けられた橋に出くわす。中央を嵩上げしたような橋の形は、船が自由に行き来できるようにという配慮から。時折、スーツケースを引っ張る観光客が独特の形状の橋を渡るのに四苦八苦している光景を見かける。笑っては申し訳ないのだが、そんなところにこの街のつくりが見えた気もして、つい頬が緩んでしまう。
 建物と水路が入り組むさまをもっと間近に感じたいなら、少し値は張るけれどもゴンドラに乗って水路を巡ってみるのも悪くない。狭い水路では、建ち並ぶ建物の狭間にぽっかりと開いた隙間から空がのぞく。海の満ち引きでついた水位の跡を水際の壁に見ながら運河を行けば、水路とともに成り立っている「水の都」の姿を実感できるだろう。
 もうひとつ、ヴェネツィアといえばカーニバル。共和国の末期には、実に半年間にわたってカーニバルが繰り広げられていたという。
 この時代、ヴェネツィアは近隣の都市国家との争いが絶えなかった。そのため政府は街に密偵を放って恐怖政治に近い統治を行なっていた。カーニバルにはそのガス抜き的な意味合いもあったらしい。たしかにカーニバルの間は仮面をつければ貴族も庶民もなにひとつ区別がなくなり、身分を問わずカフェで同席できて、歓楽三昧だったというのだから、当時の人々がすべてを忘れて熱狂したのは容易に想像できる。
 現代のカーニバルでは、人々は思い思いの仮装をして街に繰り出す。街角の露天で仮面を買い求めた人もいれば、舞台衣装さながらに全身を決め込む人もいる。期間中、同じ場所できらびやかな衣装に堂に入った立ち振る舞いを披露する若者を見かけたので話しかけてみると、フランスから来た舞台俳優の卵だという。
 彼のような俳優の卵から一般人まで、仮装の祭りを楽しもうと世界中から人々が集まってくる。それがこの町伝統のカーニバルだ。
 実際、自由気ままなヴェネツィアほどカーニバルの似合う町はないと思う。「歓楽」とまではいかないけれど、非日常の空間をみんなで楽しむ街。「歴史的テーマパーク」と言ったが、それは短期間で建設されるような安っぽい遊戯場ではない。
 ヴェネツィアは、熟成されたとことん大人のためのテーマパークである。
富井義夫




アクセス:ヴェネツィアとその潟〔イタリア〕 【所在地】
イタリア北東部、ヴェネト州ヴェネツィア県に属し、ヴェネト州の州都。市内にはサン・マルコ大聖堂やドゥカーレ宮殿、リアルト橋、カ・ドーロなど見所が多い。

【アクセス】
ヴェネツィア・テッセラ空港から町の中心サン・マルコ広場までエアポート高速船で約1時間20分、バスでローマ広場まで約25分。またはヴェネツィア、サンタ・ルチア駅から水上バスで約20分。