No.06 タリン歴史地区(旧市街)〔エストニア〕|週刊 世界遺産×富井義夫 - 最新ヨーロッパの人気世界遺産めぐり

No.06
2014年5月25日

〔エストニア〕

タリン歴史地区(旧市街)

Historic Centre of Tallinn

 バルト3国を旅してきたが、そのなかでお気に入りの場所は? と聞かれたら、わたしは迷うことなくエストニアの首都タリンを挙げるだろう。
 その理由は、気ままに歩き回るのに旧市街がまさにちょうどいい大きさだということ。この「街の大きさ」というのは、旅をしているときにはけっこう重要なポイントになる。あまりに広大なエリアだと歩き疲れて散漫な気分になるし、建物がひとつあるだけで、あとは何もないような場所だと気持ちも萎えてしまう。その点、タリンはこぢんまりとした街に中世の面影がほどよく凝縮されていて、どこを歩いていても歴史情緒あふれる佇まいを味わえる心地良さがある。
 トーンベアと呼ばれる山の手から下町を見渡すと、建物を彩るピンクやブルーの色彩が目を惹く。こんなカラフルな色遣いは、他の場所ではなかなかお目にかかれない。見張り塔のトンガリ帽子の屋根、縦型の窓が行儀よく並んだ建物、美しい石畳の小道などで構成された街は、重々しい中世都市とはひと味違う、絵本の世界のような愛らしさを秘めている。
 下町を散策していていつも最終的に戻ってくるのがラエコヤ(市庁舎)広場。中世から続く街の中心地だ。夏場はオープン・カフェが出て北欧からの観光客でにぎわうのだが、クリスマスが近づくと近郊の森から切り出されたトウヒの巨木が中央に据えられる。古い資料によれば、広場に初めてクリスマス・ツリーが据えられたのは1441年だという。世界でもっとも古いクリスマス・ツリーのひとつだ。
 クリスマス・マーケットにドイツやオーストリアのような派手な賑わいはないけれど、長い間受け継がれてきた伝統の良さだろうか、タリンのクリスマスには素朴な趣があって不思議と心が休まる。
 広場には電飾でデコレートされたかわいい三角屋根の店が軒を連ねていた。店内をのぞいてみると、クリスマス用の商品はもちろん、ウールのセーターやマフラー、木工細工やキッチン用品、アクセサリーまで、さまざまなものが売られていた。
 ひっそりと立っているクリスマス・ツリーの情景を撮影したくて人通りが少なくなるまで待つことにしたが、気温はマイナス10度まで下がってきた。こんなときにうれしいのが、マーケットで売られている北欧伝統のホットワイン。スパイスが効いた甘めのワインを飲むと、凍えた四肢がじんわり温まる。夜更けの広場でちょっぴり幸せな気分を味わった。
富井義夫




アクセス:タリン歴史地区(旧市街)〔エストニア〕 【所在地】
エストニアの首都、タリンの市街地が登録対象。トーンペアの丘という山の手の城塞都市と、下町の商人街であるハンザ同盟都市の街並みが残されている。

【アクセス】
タリン空港からシャトルバスで市街まで約15分。