No.21 アルベロベッロのトゥルッリ〔イタリア〕|週刊 世界遺産×富井義夫 - 最新ヨーロッパの人気世界遺産めぐり

No.21
2014年9月7日

〔イタリア〕

アルベロベッロのトゥルッリ

The Trulli of Alberobello

 オリーブ畑が続く風景を電車の窓からぼんやり眺めていたら、一風変わった形の家屋が突然、視界に入った。白壁にとんがり屋根をのせた建物─初めて目にするトゥルッリだ。トゥルッリとは、この地方独特の工法で建てられた住居のこと。なんともユニークな形をしているなと思ったところに、似たような建物がポツポツと見え始めた。
 アルベロベッロの駅で列車を降りて大通りを歩き、広場の先の坂道を登り切ると、そこが観光客の集まるモンティ地区。目の前にトゥルッリがびっしりと並ぶ、迫力ある光景が広がっている。
 ここのトゥルッリの大半は、レストランや土産物屋に転用されている。観光地化が非難されることもあるけれど、そこにあるのは紛れもないトゥルッリだし、旅行者は食事だって摂らなければならない。商業化されたエリアだからこそ気安く歩き回れるということもある。もうひとつアルベロベッロにはいまも地元の人たちが暮らす地区があって、こちらには400あまりのトゥルッリが密集している。生活が営まれている場所だけに、昼下がりの路地裏には静けさが漂い、洗濯物が揺れていたりする。奥にはわたしたちと同じような悲喜交々の暮らしがあるのだろうが、そこまで踏み入ることはできない。
 トゥルッリのパノラマを一望できる場所を探していくつか高台に登ってみた。風変わりな建物がこれだけ林立する光景はさすがに浮世離れしていて、おとぎの国か、SF映画に出てくる谷間に隠れされた秘密の村か、といった様相である。屋根に描かれた星や十字をかたどったマークは、キリスト教以前、この一帯で信仰されていた原始宗教や魔術をシンボライズしたもの、という話を聞いてしまうと、そんな空想もいっそう掻き立てられる。
 モンティ地区に戻って、一軒の土産物屋に入ってみた。ふと天井を見上げると、円錐状に石を積み上げて造ったとんがり屋根の構造がむき出しになっているではないか。トゥルッリの屋根は、モルタルなどの接合剤をいっさい使わず、単純にバランスを取りながら石を組んでいっただけのもの。要するに簡易屋根なわけで、バランスを壊せば崩れ落ちてしまう。なぜこんな特殊な構造の家が建てられたのか。国に対し不動産税を払いたくなかった時の領主が農民に「すぐに解体できる家」しか建てさせなかったため、という理由を知ると、メルヘン気分だけに浸ってもいられなくなる……。
 しかし、戦さが起これば屋根の石材は攻撃に使われる石つぶてになったという説もあったりするので、稀にみる変幻自在な住居ともいえるかもしれない。白壁で外気と遮断された室内がひんやりとして気持ちがいいのも、南イタリアの暑さに最適のつくりといえるのではないだろうか。この土地でしか生まれようがなかった建物。それがトゥルッリなのだ。
富井義夫




【所在地】
イタリア南部、プーリア州バーリ県に属し、トゥルッリと呼ばれるとんがり屋根の家々が1600軒余り残っている。

【アクセス】
バーリ中央駅に隣接するスッド・エスト駅から列車で約1時間30分。